企業・地域に根ざした取り組みとデザインの融合を形にする支援
1. デザインの力で社会課題を解決する
NPO法人 Co.to.hanaとIKIDESGIN JAPAN株式会社の代表取締役である西川亮さんは現在2社の経営をしています。
「デザインの力で社会を変えたい」という強い思いを持ち、社会問題や社会課題の解決に取り組んでいます。西川さんは、ボランティア活動にとどまらず、課題解決を「ビジネス」として行うことの重要性を強調しています。
現在、社会には多くの課題が存在しており、課題に加えて社会の変化に伴い行政の施策や制度では対応しきれない問題も増えています。
西川さんは「与えられることを待つのではなく、ないのであれば自分たちでつくる」という精神を大切にし、地域とのつながりを重視しながら、デザインの力を活用して身の周りの課題を解決しています。
このように、西川さんの「ビジネス」は、プロフェッショナルなデザインの力を駆使して社会課題の解決に貢献するものであり、その存在自体が大きな意義を持っています。西川さんの取り組みは、社会全体の改善を目的としたものであり、そこから企業の活性化や人材の成長を目指しています。
2. NPO法人 Co.to.hanaの取り組みとサービス
Co.to.hana(コトハナ)は、「Co:様々な人が集まって協力すること」「to:社会へメッセージを届けること」「hana:想いをカタチにすること」という意味を持つ団体です。西川さんが2010年にNPO法人 Co.to.hanaを設立し、現在は大阪を拠点に全国各地で活動をしています。
「デザインの力で社会を変えたい」というミッションのもと、「デザイン」「プロジェクト」「研修・講演」の3つの事業を展開しています。
Co.to.hanaの取り組みは、デザインを通じて社会全体の改善や地域の活性化に寄与しています。
2-1.地域とデザインの架け橋となるNPO法人 Co.to.hanaの設立
NPO法人 Co.to.hanaの設立は、西川さんの小学校時代に遡ります。野球チームをゼロからつくる体験をし、弱小だったチームが強豪チームへと成長しました。この体験が「与えられることを待つのではなく、自ら行動して変える」という信念を育みました。
その後、高校生になった西川さんは建築家との出会いを通じて新たな方向性を見出し、神戸芸術工科大学で建築と環境デザインを学びました。そこで、単に建物を設計するだけでなく、その過程や利用方法を含めた総合的なアプローチに魅了されました。この志が幼少期の経験と結びつき、Co.to.hanaの設立へとつながりました。
設立後、アルバイトをしながら企業や行政に改善提案を行い、少しずつ活動が広がってきました。これにより地域社会との信頼関係が築かれ、Co.to.hanaはデザインを通じて社会課題に対応するプロジェクトを展開しました。
西川さんの情熱と行動力が団体の成長を支え、現在ではデザインの力で社会を改善する使命を果たしています。
2-2. NPO・NGO団体のブランディングとデザインのサポート
NPO団体は情報発信に苦労し、自らの活動に専念することが多いです。Co.to.hanaはこの課題に対し、デザインを通じて支援しています。多くの場合、団体内でスタッフが空き時間に広報ツールを作成したり、ボランティアに依頼したりしていますが、外部デザイナーとのコミュニケーションが難しいこともあります。また、多くの代表者はデザインに対する優先順位が低く、資金を他の活動に優先して投入する傾向があります。その結果、コミュニケーションツールが団体のビジョンと一貫性がなく、外部から理解されにくいことがあります。
Co.to.hanaは、ウェブサイトやチラシ、空間デザインの改善を通じて、NPO団体の情報発信を支援しています。具体的には、見やすく使いやすいウェブサイトの制作、分かりやすく効果的なチラシの制作、そしてオフィスやイベント展示の空間デザインを強化し、団体のメッセージをより強く印象づける手助けをしています。これにより、NPO団体は自身の活動を効果的に伝え、社会的な課題解決に向けた支援を得ることができます。西川さんとCo.to.hanaは、デザインの力を活用し、NPO団体がその使命を達成するための環境を整えることに取り組んでいます。
2-3. 震災の記憶を未来に伝えるためのプロジェクト
震災の記憶と経験を後世に伝え、人と人のつながりを深めることを目的とした「シンサイミライノハナ」は、阪神・淡路大震災からちょうど15年後の2010年に開始したプロジェクトです。プロジェクトでは、「花」のオブジェを用い、メッセージカードを花びらに見立てて、震災に関する個人の体験や思い出を記入し、それらを集めて1本の「シンサイのハナ」として展示する形式を採用しています。
活動は当初、予算もなく始まりましたが、その理念に共感した学校や全国の人々、さらに他の地域で暮らす震災経験者に広がりを見せ、わずか3カ月で3万枚以上のメッセージが集まりました。この取り組みは日本国内だけでなく、インドネシアのスマトラ沖地震や東北の被災地、ニューヨークでも展開され、計20万人以上の参加を得ています。
西川さんは、「シンサイミライノハナ」を通じて、社会的課題に対して自ら行動し解決を目指す姿勢を示しています。「世の中には多くの課題があるが、他人任せにして何も改善されない。だからこそ、自分たちでできることを自ら行動してやりたい」との信念を持ち、この活動の原点としています。
このプロジェクトを通じて、西川さんは震災の記憶を未来に伝え、人々のつながりを深める貴重な場を提供しています。西川さんの活動は、単なる記憶の保存にとどまらず、個々の声や体験を通じて社会的共感を促進し、より良い未来を築くための一石を投じています。
2-4. 地域住民の豊かな暮らしの場
2011年に始まった「北加賀屋みんなのうえん」は、都市部の空き地や空き家を活用し、農園として整備することで地域コミュニティを形成するプロジェクトです。この取り組みは、地域の人々が一緒に畑作りを通じてつながりを深め、自分たちで必要なものややりたいことを実現する場を提供します。
具体的な活動内容は、まず空き地の開墾や土づくりから始まります。地域住民が協力して畑として利用できるよう整備し、その後は設備の整備に取り組みます。レンガの道や農具倉庫、また特殊な施設としてピザ窯や醤油倉庫などのインフラ整備を共同で行い、農園運営の基盤を整えます。参加者は野菜の栽培を通じて自らの手で作物を育て、収穫した野菜を使ったイベントやケータリングサービスを提供し、地域外の来訪者にも開放します。また、畑やイベントスペースのレンタルを可能にし、地域活動や個人の行事にも活用されています。
現在、「みんなのうえん」は北加賀屋と寝屋川に農園を展開しており、それぞれに特色があります。北加賀屋では静かでプライベート感のある小さな農園や、イベントスペースとして利用できる大きな農園があります。寝屋川では住宅跡地を利用した農園と古民家をリノベーションしたキッチンサロンがあり、さまざまなイベントに活用されています。
西川さんは、「北加賀屋みんなのうえん」を通じて、地域社会に貢献し、人々のつながりを育むことを理念としています。西川さんの活動には、自発的な地域貢献と課題解決の強い意志が反映されており、「行政や他者に依存せず、自らの手で地域の豊かさを築く」ことを目指しています。
2-5. 被災地の高校生と地元をつなぐかぎかっこプロジェクト
東日本大震災後に被災地の高校生と地元をつなぐ目的として開始したかぎかっこプロジェクトの取り組みとして2011年に立ち上げられた『いしのまきカフェ「 」』は、被災地支援プロジェクトです。東日本大震災後、石巻市内の高校生が中心となり、地元の食材を活用したカフェを運営しています。このプロジェクトは、高校生の自立支援と地域活性化を目的とし、彼らが空間デザインから商品開発、運営までをゼロから手掛けました。地元の農家や水産加工会社と協力しながら、地元食材をメニューに取り入れ、地域の魅力を広める努力を続けています。
店名「 」は、初めは高校生が考案した名前を使う予定でしたが、その後、既成概念にとらわれず個性や可能性を大切にしたいという思いから、このまま「 」と名付けられました。このカフェを通じて、高校生たちは学校では得られない貴重な体験をし、チームとして課題に立ち向かい成長しています。西川さんは、プロジェクトを通じて東北の若者たちが新しい価値観を生み出していることを感じており、地域社会との絆を深める場としての役割を果たしています。
2-6. 高校生が主体となり地域をつなぐプロジェクト「高校生百貨店」
「高校生百貨店」は、各地域の高校生が参加し、地元の魅力ある商品を発掘し、販売するプログラムです。専門家からの指導を受けながら、レクチャーやフィールドワークを通じて商品を選定し、生産者のストーリーや背景を理解しながら販売会を企画・実施します。
この活動は、地元の生産者との密接なコラボレーションによって、地域の特産品やクリエイティブな商品を広く知ってもらう機会を提供します。また、高校生たちは百貨店のコンセプトや店舗の空間づくり、販売戦略、パッケージングの開発にも参加し、実践的なアントレプレナーシップを身につけます。
現在は岩手、仙台、福島、山形、東京、大阪で販売会を開催しており、今年の夏には京都の河原町OPAにて常設店舗をオープンする予定です。将来的には国外展開も視野に入れ、各地域に住む学生たちの可能性を広げることを目指しています。
このプログラムは、地域の魅力を再発見し、地元経済の活性化を促進すると同時に、若者たちに実践的なビジネススキルを教育する場でもあります。地域コミュニティと学生が協力し合いながら、創造力とリーダーシップを育む新しい取り組みです。
2-7. 地域住民の「とくい」な技能を活かし地域の困りごとを解決
掃除や家事、技術的な支援など、さまざまな形で地域の困りごとを解決すべく、2016年に開設された「ひとしごと館」は、地域社会において自らの得意や技能を活かして地域住民の役に立ちたいという想いを持つ人々が集まる場です。この施設では、「とくい」を持つ人と助けを必要とする人を結びつけ、お互いの生活を豊かにするサポートを提供しています。
特に注目すべきは、施設内で活動するメンバーが持つ専門分野やスキルがカードで一覧化され、利用者が簡単に得意分野を把握できる工夫がされている点です。これにより、必要なサポートを必要な時に的確に提供することが可能となっています。
また、この活動は単なるボランティアではなく、少額の報酬を得ることができる形態であり、参加者は自身の活動を通じて収入を得ることができるため、経済的な面でも支援が行き渡りやすくなっています。さらに、この収入を通じて仲間との絆を深め、地域社会全体の助け合いの文化を育てることが目的とされています。
「ひとしごと館」のビジョンは、地域の「とくい」を活かした支援活動を通じて地域社会の結束を強め、住民一人ひとりが豊かな生活を送ることができる社会を築くことにあります。創設者である西川さんは、このビジョンを全国に広げることで、より多くの地域で人々が自分の得意を活かして活動し、社会全体が成長していくことを目指しています。
3. IKIDESGIN JAPAN株式会社と取り組みとサービス
IKIDESGIN JAPAN株式会社は、2020年のコロナ禍に設立されたクリエイティブチームです。
「粋」な心と「美しい」感性を基に、企業や地域と連携し、プロジェクト開発や商品企画、ブランディング、デザイン業務を提供しています。
北加賀屋の地域プロジェクトや自社プロジェクトも展開し、地域社会の活性化にも貢献しています。
ロゴマークのモチーフは「茶柱」で、日本の美意識を象徴しています。世界に誇れる文化と大切な資源として、あたりまえの日常に新しい価値を見出します。
規模や分野を問わず、人・組織・プロジェクトとつながることができるチームとなっています。
3-1. 中小企業の課題の解決のためにデザインの力を普及
NPO法人の立ち上げからNPO一筋の道を歩んできた西川さんは、視野が狭くなってきたと感じ、ビジネスの可能性に焦点を当てて既成概念にとらわれず社会を変えたいとの考えから会社を立ち上げました。
中小企業が抱える課題をデザインの力で解決し、ブランディングを中心にサポートすることを目指しています。
社会が課題に満ちている中で、多くの中小企業が解決策を見出せずに潰れていく現状に対し、西川さんは「いいもの」を持つ中小企業が成功するための基盤を作ることが重要だと考えました。
そのため、西川さんの会社では、資金が乏しい企業も支援できるよう、成果報酬型のサービスを提供しています。
具体的には、ロゴマーク、ウェブサイト、パンフレットなどの広告物のデザイン・ブランディング、イベントブースの空間デザイン、パッケージデザイン、ブランド開発など、多岐にわたるサービスを展開しています。これにより、中小企業が「いいもの」を活かし、ビジネスを成功させるための強力な支援を行っています。
西川さんの取り組みは、中小企業の成長と社会の変革に貢献することを目的としています。
3-2. 「農業×就労支援」を実現する農園「おどるトマトの森」
大阪府池田市で「農業×就労支援」に取り組むNPO法人トイボックスは、池田市やクボタとの協働により、スマイルファーム細河の観光農園化と農福連携を推進をしています。
そこで立ち上げられたプロジェクトが「おどるトマトの森」です。スマイルファーム細河では、非常に甘いミニトマトを栽培し、Yummy Marketで販売しています。また、オリジナルクラフトビール「ふらふらガール」の販売も展開しており、農作物と地域特産品の両面で地域経済を活性化させています。
3-3. ワクワクする逸品が集まったセレクトショップ
Yummy Marketは「心がおどれば体もわらう」をコンセプトにしたセレクトショップです。Yummy Markertでは工夫されたワクワクする逸品が集まり、おもしろく興味を惹く商品ばかりが揃っています。このショップは北加賀屋に展開されており、季節ごとの商品や各地域の食材を使用したこだわりの商品を取り扱っています。
例えば、地元の新鮮な野菜や果物、手作りのジャムやスイーツなど、思わず食べてみたくなる商品が豊富です。
また、販売だけでなく、様々なワークショップや出店イベントも開催しています。これにより、お客様は商品の購入だけでなく、作り手との交流や製作体験も楽しむことができます。
ショップのブランディングデザインは、来店するお客様に笑顔と幸せを提供することを目指し、心踊るショッピング体験を提供しています。
3-4. 「モノづくりの町 東大阪」をリアルに感じてもらうオープンファクトリー
4. これからの活動における西川さんの想い
西川さんは想いや今後の活動について下記のように述べています。
「人材発掘と経営者の育成に注力していきたいと考えています。特に、Co.to.hanaやIKIDESIGN JAPANの取り組みを通じて、若い人材との出会いを増やし、彼らを将来の経営者として育てると同時に、現役の経営者も支援をします。
令和の時代に入り、社会は急速に変化し、多くの面で良くなっていますが、社会の問題や課題は依然として存在します。これらの課題解決は不可欠であり、企業の成長が日本全体の向上に繋がると信じています。特に人材発掘を通じて未来の経営者を育成することが重要です。中小企業の課題を解決し、活性化することを目指しています。
デザインの力を活用すれば、さまざまな方向から社会課題に介入し、解決することが可能です。デザインを通じて社会を良くすることに大きな可能性を感じています。また、事業承継にも関心があり、若い人材と現経営者を組み合わせることで、新たな価値を生み出せると考えています。事業承継を通じて、企業の継続と成長を目指し、社会全体の活性化に寄与したいです。
さらに、これらの活動を日本国内だけでなく、現在の活動を海外にも展開することで、グローバルな視点からも社会の活性化を目指しています。これにより、より広範な影響力を持ち、世界全体に貢献することができると考えています。」