人材業界の逆風:空前の売り手市場が招く淘汰と新たなビジネスモデルの模索

人材会社イラスト

深刻な人手不足が叫ばれる中、転職市場は活況を呈している。しかし、その裏側では人材関連サービス業界に異変が起きている。職業紹介業や人材派遣業の倒産件数は過去10年で最多を記録し、2024年度(4~2月)には既に92件に達している。これは前年同期比10.8%増、そして過去最多だった2023年度の91件を既に上回る数値であり、100件の大台も視野に入れている。

コロナ禍からの急激な回復によって、人材関連サービス業界は空前の売り手市場に直面した。しかし、その恩恵は中小企業にまで行き渡らず、むしろ業界全体の淘汰を加速させる結果となった。

目次

倒産増加の背景にある3つの要因

この倒産増加の背景には、以下の3つの要因が複雑に絡み合っている。

  1. 深刻な人材不足と過当競争
    人材業界は競争が激しく、特に中小企業は、大手企業が潤沢な資金で広告展開を行う中、優秀な人材の確保に苦戦している。広告宣伝費の負担は資金繰りを圧迫し、倒産の引き金となるケースも多い。人材サービス会社自身も人材不足に悩まされており、顧客ニーズへの対応が困難になっている。
  2. 福利厚生負担の増加とビジネスモデルの変化
    派遣業界では、社会保険適用拡大や有休取得促進などの法規制強化が経営を圧迫している。加えて、近時は直接雇用へのシフトやスキマバイトの増加など、従来型の人材派遣業のシェアを脅かす新たなビジネスモデルが台頭している。
  3. 採用方法と働き方の多様化、賃金高騰
    企業は、人材サービス会社を通さず直接採用する動きを強めている。多様な働き方へのニーズの高まりや賃金高騰も、人材関連サービス業界のビジネスモデルを大きく変革させている。

倒産企業の実態:中小企業を中心に、再建困難な状況

倒産企業の分析結果によると、販売不振が全体の約7割(62件)を占める。破産を選択した企業が9割を超えており、再建が困難な状況にあることがわかる。負債額は「1,000万円以上5,000万円未満」が最も多く、従業員数も「5人未満」が7割を超えるなど、中小企業への影響が顕著である。地域別では、関東、近畿、中部といった大都市圏に倒産が集中している。

今後の展望:淘汰と進化、新たなビジネスモデルの模索

人材不足と過当競争、そしてビジネスモデルの変化は、人材関連サービス業界に大きな構造転換を迫っている。生き残りをかけた淘汰と、新たなビジネスモデルの模索が、今後ますます加速していくと考えられる。 この状況を乗り越えるためには、顧客ニーズを的確に捉えたサービス提供、デジタル技術を活用した効率化、そして人材確保のための戦略的な取り組みが不可欠となるだろう。

この新たな状況下で、人材関連サービス業界はどのような進化を遂げるのか、今後の動向に注目が集まる。

株式会社東京商工リサーチ
「人材関連サービス業」の倒産、過去10年で最多 人手不足と過当競争に加え、福利厚生も負担に | TSRデータ... 深刻な人手不足で、転職や人材関連市場が活況を呈している。だが、その一方で、職業紹介業や人材派遣業などの「人材関連サービス業」で倒産が増加していることがわかった。...
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