「焼肉こじま」二代目社長 児島雄太氏の挑戦と革新

19歳で父を亡くし、突然「焼肉こじま」を継ぐことになった児島雄太氏。先代からのバトンを受け継いだものの、そこからは苦難の連続でした。従業員の相次ぐ退職、自身の未熟さ、そしてコロナ禍。しかし、彼は決して諦めませんでした。どん底から這い上がり、V字回復を成し遂げた児島社長の軌跡と、未来への展望に迫ります。
19歳、突然の継承、どん底からのスタート
インタビュアー: 児島さん、19歳という若さで老舗焼肉店の二代目社長に就任されたとのことですが、当時の状況を詳しく教えていただけますか?
児島氏: はい、本当に突然のことで、まさか自分が経営者になるとは思ってもいませんでした。父が亡くなり、アルバイトから社員になったばかりの私が、否応なく店の経営を担うことになったんです。父は現場に立つことは少なく、従業員に店を任せることが多かったので、私は経営について何も知りませんでした。しかも、お店は昔ながらの体質が残っていて、従業員が19時からお酒を飲み始めたり、タバコを吸いながら接客することもありました。でも、父の死をきっかけに、「自分が店を守らなければ」という強い責任感が芽生えたんです。そこからは、母親と一緒に本格的にお店を運営していくようになりました。
インタビュアー: お母様と二人三脚で店を切り盛りすることになったんですね。そこからどのような苦労がありましたか?
児島氏: まずは従業員との関係構築に苦労しました。少数精鋭のスタッフとの連携は難しく、何よりも私自身の未熟さが一番の課題でした。若くして二代目社長になったことで、周囲から「すごい」と言われたい、認められたいという欲が先行してしまったんです。経営者として未熟だった私は、自身の欲や見栄といった雑念に打ち克つことができず、経営に集中できませんでした。それに、焼肉屋の2代目という立場に恥ずかしさを感じ、店舗数が少ないことを気にしていました。そのコンプレックスを払拭しようと、1年間食肉センターで丁稚奉公をしたり、たくさんの本を読んだり、休憩時間には焼肉店で修行を重ねたりして、背中で見せようとしていましたが、結局は頭でっかちになってしまっていました。さらに、コンサルタント事業や助成金の斡旋など、多角的な事業展開を試みたんです。しかし、それが結果的に本業への集中を妨げ、自社の課題から目を背ける結果となってしまいました。さらに、従業員の相次ぐ退職、数年後に発生したコロナ禍が重なり、本当に辛かったです。1人で4店舗を運営していたこともありましたが、結局うまくいかず、店舗を次々と閉店し、最終的に「こじま本店」だけが残りました。何度も心が折れそうになりました。自分の道をどこに切り開くべきか、ずっと模索していました。

海外での経験、そして再起:焼肉フランチャイズへの挑戦
インタビュアー: 児島さんは日本での経営に限界を感じ、海外へ活路を見出されたとのことですが、どのような経緯だったのでしょうか?
児島氏: はい、日本での経営に行き詰まりを感じ、何か新しいことを始めたいと考えていた時に、フィリピンで焼肉店の出店の機会があり、そこで不動産事業の可能性を感じました。そして、焼肉店は2017年、不動産は2019年に事業をスタートさせました。しかし、海外での事業も決して順調ではありませんでした。その後、日本に帰国し、パートナーと共同で会社を経営しましたが、まずコロナ禍によるキャッシュ不足に悩まされ、さらに、パートナーとの経営理念の違いが大きな問題となりました。目指す方向性が大きく異なり、このままでは事業が立ち行かないと感じ、2023年には最終的に7000万円でパートナーの会社を買い取るという決断を下しました。あの時、融資を受けるという選択肢もありましたが、メンバーとの経営理念の違いが大きいため、最終的に買い取ることを決めました。「この投資は正しい」と信じ、役員報酬や経費を払い続けるなら、買い取る方が最良だと考えていました。その決断が転機となり、焼肉事業の経営状況は大きく改善していきました。

飲食業の原点回帰:美味しさへの飽くなき追求
インタビュアー: 児島社長、お店の改善をどのように成し遂げたのか、詳しくお聞かせいただけますか?
児島氏: はい、まず大前提として、うちの名物である厚切りハラミなどのこだわり部分は一切変えていません。ただ、父の代は、先ほど申し上げた通り、従業員が19時になるとお酒を飲んだり、タバコを吸いながら接客したりするような、いわゆる「昭和の焼肉屋」だったんです。O157や狂牛病で淘汰されていった他の焼肉屋と同じように、うちもそのままでは時代に取り残されていたと思います。だから、思い切った改革が必要でした。
インタビュアー: 具体的にはどのような改革を行ったのでしょうか?
児島氏: まず、仕入れ先を全面的に見直しました。昔からお付き合いのある酒屋さんや米屋さん、ホルモン屋さんとの関係は大事にしつつ、特定の業者に依存しない体制を築いたんです。以前は、一つのお肉屋さんにすべてを任せていたのですが、相場が上がっていると言われれば、それを鵜呑みにしていました。でも、それではいけないと思い、他の焼肉屋の社長さんに相談したり、様々な業者に声をかけて情報を集めたりしたんです。その結果、最も安く質の良いお肉を提供してくれる業者を選び、以前取引していたお肉屋さんとの取引はすべて見直しました。
インタビュアー: 仕入れだけでなく、他にも改革した点はありますか?
児島氏: はい、仕入れ値や原価率の管理も徹底的に行いました。以前は、社員や母が管理していたのですが、私は肉屋さんが提供する情報を無批判に受け入れるだけの状況でした。でも、自分で情報を集め、価格交渉をすることで、より効率的な仕入れができるようになったんです。これらの改革によって、お店の経営状況は大きな改善を達成することができました。


顧客満足度と利益の両立:革新的な戦略
インタビュアー: 競争が激しい飲食業界で、長期的に生き残っていくためにどのような戦略をお持ちですか?
児島氏: 飲食業で最も重要なのは、やはり「美味しさ」です。これは絶対的な前提です。その上で、私たちは業態を構築する際に、何をすべきかを徹底的に考え抜きました。焼肉業界は特に、ホルモンや肉の仕入れ値が毎月のように変動します。この変動に柔軟に対応することが不可欠です。
インタビュアー: 具体的にはどのように対応されているのでしょうか?
児島氏: 単純な値上げは誰でもできます。しかし、これを実行してしまうと、増税や公共料金、様々な値上がりと重なり、お客様の財布を硬くするため、結果的に不満を招く原因になります。特に、高価格帯の業態では、よりシビアな判断が求められます。そこで、私たちは同じ原価率40%の中で、仕入れ先の見直しや、ハラミを和牛に変更するなど、付加価値を高めることに注力しています。例えば、炊き立ての銀シャリを提供することを取り入れました。しかし、ただ提供するだけでは意味がありません。入口に大きな羽釜を置いて炊き立てのご飯を目の前で見せ、御櫃に入れて提供することで、お客様にその価値をしっかりと伝えるようにしています。これらの取り組みにより、単価を上げても顧客満足度を損なうことなく、むしろ向上させることができます。
インタビュアー: 原価管理も徹底されているのですね。
児島氏: はい。毎月、詳細なシミュレーションを行い、理論原価を厳守しています。仕入れ先を一つに絞らず、常に新しい商材を探し続けることで、原価率40%を維持しています。中小企業でここまで徹底しているところは、少ないのではないかと自負しています。

成功の鍵は「人」と「マーケティング」:独自の経営哲学

インタビュアー: 業態だけでなく、「人」にも力を入れているとのことですが?
児島氏: はい、私たちは、お金や物だけでは人はついてこないと考えています。最初は魅力的でも、お金や基本給が高くなると、「次をください、次をください」となりがちです。お金や基本給だけで繋がる関係は、お金がなくなれば破綻します。だからこそ、もちろんその部分は整えつつも、理念やビジョンが浸透するような仕組みを作る必要があります。そのためには、会議やフォーラムなどの場を設け、人が輝けるような会社にしていくことが重要だと考えています。
インタビュアー: 具体的な取り組みについて教えてください。
児島氏: 昨年2024年1月から、私たちはその取り組みを始めました。まず変えたのは、会議の形式です。これまでは、ただ集まっておしゃべりをするような、本部会議のような形になっていましたが、元焼肉ライクの社長である有村さんを迎え、会議を一から見直しました。例えば、経営企画の会議や販促会議、業態の商品開発会議など、会議の種類を整理し、それぞれの目的に合わせた会議を行っています。また、アルバイトから社員へと昇進できる仕組みを作るため、2024年1月から「こじまユース」という新しい取り組みも始めました。さらに、個人の成長に応じたサービス研修や月に1回の本部会議を実施しています。加えて、全店長が集まる店長会議や、毎月1回のSVによる臨店が行われています。臨店後には、SVと店長が電話やZoomで30分間、課題を共有し、進捗をフォローアップする「週次ミーティング」を必ず行っています。このような会議体制を整えることで、課題が忘れられることなく、解決に向けて取り組んでいけるようにしています。
インタビュアー: 労働環境についても工夫されているのですね。
児島氏: はい。私たちの労働環境は徐々にホワイト化が進んでいますが、私はホワイトな環境だけではなく、精神的にはブラックな部分も必要だと考えています。最終的には、会社を良くしたいという気持ちや、自分に負荷をかけてしっかり頑張れる人間が必要です。そうでなければ、組織は弱くなり、目標である2028年に50店舗、さらにその後の600店舗という夢も叶わなくなります。だからこそ、私たちはホワイトな環境を維持しながらも、負荷を忘れず、しっかりと努力し続ける組織作りを大切にしています。

未来への展望:これからの飲食業界で求められる経営者像とは
インタビュアー: これからの飲食業界で求められる経営者像について、どのようにお考えですか?
児島氏: 昭和、平成、令和の時代を通して、成功する人のマインドは共通していると思います。働き方改革やさまざまな変化があったとしても、結局は量をこなして、コツを掴み、質に変えていくことが大切だと思っています。これは経営者にも従業員にも共通していることです。もちろん、経営者には気合や根性が求められ、逃げずに努力することが当たり前ですが、現在の私のやり方は、トップダウンで巻き込む形で進めています。ただし、マニュアルでガチガチに固めたり、DX化を進めることだけでは、大手企業に勝つことはできません。大切なのは、DX化を進めつつも、従業員や人の部分を磨き続けることです。従業員が自分の部下を巻き込み、良い店舗作りを目指して行動できるような組織作りをすることが、今後成功する企業に共通する点だと思います。
600店舗展開、そして世界へ
インタビュアー: 最後に、焼肉こじまの今後の目標について教えてください。
児島氏: 新しい取り組みというのは特にないのですが、先ほど言ったように、焼肉業態を突き詰め、人間力を磨き続けることが、他の誰にも真似できない文化やカルチャーに繋がると私は考えています。ただし、それだけでは600店舗には絶対に到達できないと思っています。だからこそ、日本国内だけでなく、世界にも展開していきたいと考えています。
インタビュアー: 児島社長の熱い思いが伝わってきました。本日はありがとうございました!
児島氏: ありがとうございました!
「焼肉こじま」の挑戦は、まだ始まったばかりです。どん底から這い上がった二代目社長の情熱と、独自の経営哲学が、新たな焼肉業界の歴史を切り開いていくことでしょう。

会社名 | 株式会社虎寅 |
住所 | 〒580-0032 大阪府松原市天美東7-12-18 |
電話番号 | 072-289-8861 |
設立 | 2021年1月 |
資本金 | 500万円 |
代表者 | 内海 順紀 |
取扱業務 | フランチャイズ本部・飲食事業・コンサルティング事業 |
