社長が認知症/被後見人になったらどうなる?
― 会社経営に及ぼす影響と事前対策 ―
本稿では、株主の立場と取締役の立場に分けて、その影響と実務上のリスクを解説します。
1 株主が認知症を発症した場合
多くの中小企業では、社長が過半数の株式を保有しています。株主が認知症になった場合、株主総会決議に問題が生じます。
■ 議決権が行使できず、株主総会が機能不全に
株主総会では、株主が議決権を行使することで会社の重要事項が決議されます。しかし、認知症により判断能力が低下すると、その議決権行使の有効性に疑義が生じます。
過半数の株式を保有する株主が認知症の発症により議決権を行使できなくなると、株主総会そのものが機能不全に陥り、役員の選任・本店移転・役員報酬の改定など、会社の意思決定が進まなくなります。
■ 株式を譲渡すれば問題は解決できるか?
では、株式を他の人に譲渡すれば、その後は有効な決議ができるようになるのでしょうか。実は、ここでも大きな問題に直面します。認知症発症後は、株式の譲渡などの法律行為も原則として困難になるため、譲渡が無効となる可能性があります。
■ 後見開始後は株式を自由に処分できるのか?
その後、成年後見制度が利用されると、株式の管理・処分は後見人の関与下に置かれます。第三者に株式を譲渡できるかについては、「財産の処分」に該当するため、家庭裁判所の許可が必要となる可能性が高く、実際に譲渡できるかどうかは不透明です。
2 取締役が認知症を発症した場合
次に、会社の業務執行を担う取締役が認知症になった場合の問題点です。
■ 判断能力低下による経営停滞
取締役は、契約締結などの業務執行を担う立場です。しかし認知症を発症すると、契約内容を理解できない、誤った意思決定を行うといった状態が想定され、経営の質が大きく低下する危険性があります。
■ 後見開始により取締役の地位はどうなる?
取締役が認知症を発症した場合、後見制度の利用が検討されます。後見開始となった場合、取締役としての地位はどうなるのでしょうか。これは、後見類型(後見・保佐・補助)によって異なります。
もし会社の唯一の取締役が被後見人となった場合、当然に退任するため、新たな取締役が選任されるまでの間、権利関係が複雑になるおそれがあります。また、2週間以内に役員変更登記が必要となる点も重要です。
■ 既に認知症の方を取締役に選任(再任)できるか?
既に認知症となり、補助人・保佐人・後見人が選任されている方を取締役に選任すること自体は可能です(本人や後見人等の同意が必要です)。
ただし、会社の登記簿に成年後見制度の利用が記載されるわけではありません。つまり、第三者からは他の取締役と同様に、正常な判断能力を有している者として見られます。
そのため、その方が取締役として行った行為は、制限行為能力を理由として取り消すことができず、判断能力が十分でない状態で第三者と契約・取引を行ってしまうリスクがあり、業務執行上の問題が生じる可能性があります。
3 発症してからでは遅い?事前対策が重要な理由
認知症発症後には、成年後見制度の利用が検討されます。しかし、後見制度には次のような課題があります。
■ 後見制度の課題
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後見人選任までに時間を要する
成年後見の申立てから後見人の選任までには、一般的に数か月程度を要します。その間は株主総会の開催が困難となる可能性がある、重要な意思決定ができないなど、経営の空白期間が生じるリスクがあります。 -
後見人が会社の実情を把握していない
後見人には弁護士や司法書士などの専門職が選任されることも多くありますが、後見制度は本人の財産保護を目的とするため、会社の成長や将来性よりも資産の安全性が優先される傾向があります。その結果、意思決定が慎重かつ消極的になることもあります。
■ だからこそ「事前設計」が重要
このように、成年後見制度は有効な制度ではあるものの、会社経営との関係では一定の制約があるのも事実です。だからこそ、認知症発症後に法定後見に委ねるのではなく、発症前に意思決定の仕組みを整えておくことが重要です。
などを生前から検討しておくことで、認知症発症後も会社が機能する仕組みを構築できます。これらは、認知症発症後の契約締結や対応は困難になります。
4 まとめ
株主が認知症になると「会社の意思決定」が止まり、取締役が認知症になると「会社の業務執行」が止まります。そしてこの2つが重なると、会社は意思決定も実行もできない状態に陥ります。
最も重要なのは、これらの問題について、発症後には十分な対策を講じることが難しいという点です。
「まだ大丈夫」と思っている今こそが、会社を守るための準備を行うべきタイミングです。将来のリスクに備え、早めに専門家へ相談し、対策を検討しておきましょう。

